縁の下のアール・デコ(ペンタクリップ)


 自転車部品の名称には聞いただけでは想像がつかない変わったものが多くあります。変わった名称の一つに“やぐら”と呼ばれるものがあります。“やぐら”はサドルを支える台座として使われ、シートポストに取り付けるものです。なるほど、言われてみれば高くのびたシートポストの上に付いた姿は正に“やぐら”です。因みに英語ではSaddle Cranp又はSaddle Clip等と呼ばれるようですが、読んで字のごとし、分かり易いですが日本の名称の方がイマジネーションが豊でたのしい表現です。

 写真の“やぐら”、一番上がブロンプトンの“ペンタクリップ”と呼ばれる純正の“やぐら”です。真ん中はブルックスの物、そして手前にあるのがフランス、イデアルの“やぐら”です。
 比較すると分かるようにブロンプトンの“やぐら”は他の二つとは異なり直線と曲線を基調にした幾何学的な形をしています。名前も変わっていますが、よく眺めると、なで肩にカットされた部分を上方に線で結ぶと五角形に見えます。だからペンタクリップなのでしょうか?
 形だけではなく素材も他の二つとは異なりアルミ製です。重さを計ると、ブルックス:150g、イデアル:165gに対してペンタクリップは105g、他の二つに比べて3割以上も軽量化されています。
 ペンタクリップは構造も凝っています。他の“やぐら”が菊座と呼ばれる菊の花のように放射状に溝を切った部分を噛み合わせてサドルの角度を段階的に調整するのに対して、ペンタクリップは片側に2枚で1組となる360度回転するワッシャーを2セット、計4枚を挟んで、サドルの角度を無段階に微調整することが出来ます。

 私はペンタクリップの直線と曲線で構成された造形からフランスのポスター作家、カッサンドルの作品を思い起こします。他の自転車の部品に比べると“やぐら”は目立たない地味な存在ですが、サドルの下からちらりと覗くペンタクリップの姿はとても誇らしく思います。

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