Broの肖像(Brooksのグリップ 江戸の粋)


 人間の脚力で動く自転車は人間にとても近い乗り物です。特に自転車と身体が直接触れるサドル、ペダル、グリップといった部分からは自転車の状態が直に伝わってくるため、走行中は正に人馬一体(人輪一体)です。
 自転車のグリップは舵取りやブレーキ操作等、自転車を安全に走らせるためには欠かせない操作面は勿論、人と自転車が身体的にコンタクトをする重要な部分でもあります。

 写真のグリップは先日Blogに載せたサドルと同じブルックスが作ったグリップです。ブロンプトンの純正グリップはウレタンのような素材で出来きた少し細めのグリップで、手の小さい人や女性には握った感じが優しく握りやすいグリップになっています。一方で手の大きな男性には少々華奢で頼りない感じがします。私はサドルをブルックスに交換した際にサドルと同じグリーンの革を使ったこのグリップに交換をしました。

 このグリップは発想が大変ユニークで造りも凝っています。何がユニークなのか?握ぎり部分の革は、ブルックスの工場でサドルを製造する際に出る端切れを使っています。よって革の部分はブルックスのサドルと同じです。革は中心にハンドルを通す穴が空いたリング状の形に裁断してあり、このリングを複数重ねて握りとして使います。握りの長さはリングの枚数を変えることで調整が可能です。また、握りが回転しないように3本のスポークを使ってリングを串刺しにして、両端を凝ったデザインが施されたアルミ製のエンドキャップでしっかり挟んで固定しています。

 ブルックスのグリップが他の革製のグリップと大きく異なるところは革の表面を握るのではなく、革の断面を握る点にあります。適度にざらつきがある革の断面を握ることで手の滑りを防ぐ利点があります。また、リング状の革を複数束ねたことによって握り部分の強度は高く、ハンドルを掴んだ手の力が逃げません。このことは坂を上る際に特に有効に感じます。
 デザインも他のグリップにはない個性的なものです。ご覧のように革の断面を重ねた層から微妙に内側の革の色が見えるようになっています。革のテクスチャーと革の色、両方が楽しめる秀逸なデザインなのです。このデザイン感覚に私はどことなく江戸の粋を感じます。
 ブルックスのグリップは格好ばかりではなく、材料の無駄を抑え、同時に機能面もよく考えられたとっても粋なグリップです。

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