世田谷美術館まで写真展「日本の自画像」を見に行きました。(6月21日で終了)
「日本の自画像」展は第二次大戦集結(1945年)から東京オリンピック開催(1964年)まで、激動する19年間の日本を石元泰博(以前にも紹介)、川田喜久治、木村伊兵衛、田沼武能、東松照明、土門拳、長野重一、奈良原一高、濱谷浩、林忠彦、細江英公、以上11人の日本人写真家達が撮影した白黒写真168点で構成した写真展です。
この写真展は2004年に出版された同名の写真集「日本の自画像」(岩波書店)が基になっています。写真集の企画は戦後の日本の写真に興味を持ったパリ在住のマーク・フューステル(息子)、ヘレン・フューステル(母)親子が2002年から地道に始めたもので、写真集を制作するにあたり本展にも写真を提供した写真家の田沼武能、岩波書店 美術書編集者の多田亜生、写真評論家の平木収、人物地理学者の竹内敬一らが協力しています。当初は写真集の出版の後にフランス、パリにあるポンピドー・センターで展覧会が開催される予定でしたが、この企画に賛同していた当時ポンピドー・センター写真部門の責任者であったアラン・サヤグが写真集出版後に退官してしまったことで、写真展の話しは白紙になってしまいましたが、写真集制作から5年の歳月を経て今回ようやく日本で写真展が行われるようになったという経緯があったようです。
本展覧会で展示された168枚の写真は有名な写真が多く、少しでも写真に興味がある者にとっては、選ばれた写真自体には新鮮味の欠ける展覧会に映ります。しかし、終戦直後から東京オリンピック開催まで激動する約20年間の日本の様子をこのように写真で改めて眺めてみると大袈裟ですが私なりに発見もあって大変興味深い写真展でした。
特に印象に残ったことは敗戦後、僅か20年足らずの間で何の葛藤もなく殆どの日本人がアメリカ的民主主義に見事に同調してしまったことです。
田沼武能や林忠彦が撮影した終戦後の子供達を撮った写真を見た後に、約10年後に同じく東京銀座で田沼武能が撮影した若者達の姿を撮った写真を見ると複雑な気持ちになりました。終戦後、僅かな期間で復興を遂げた日本を写真展では"日本民族の強靭さ"と言う表現をしていましたが、アフガニスタンやイラク等、アジアの国々がもがき苦しんでいることに比べて日本人の身代わりの早い性質には軽薄さを感じずにいられませんでした。
本展覧会では激動する日本の様子と同時に日本の写真表現の変化も見せています。写真について感じたことも幾つかありました。
先ず、土門拳や木村伊兵衛らが写した被写体主体のドキュメンタリー写真が力強くそして当時の日本の様子が写っていることが素直に面白いと感じたことです。東松照明や奈良原一高らの写真も勿論、新しい写真表現として素晴らしい写真ですが、今回のような企画で写真を観るとストレートに時代を写した土門や木村達の写真が断然面白く映りました。別の言い方をすれば東松照明らが自己のイメージを探求し突き進んで行く程そこに映し出された写真は抽象的で写真のエネルギーは対照的に減衰していくように感じたのです。
「日本の自画像」展は濱谷浩の「終戦の日の太陽」を撮った写真から始まっています。そしてこの写真は本展覧会を象徴する写真でもあります。展覧会の企画者、マーク・フューステルも「終戦の日の太陽」を重要な写真と捉えているようです。
玉音放送で日本の降伏と戦争終結を知った後に濱谷が何故このような写真を撮ったのか真意は分からないが、展覧会の最初にこの写真を選んだのは単に日本の戦後の出発点というだけではなく、日本の現代史において最も混乱と激動を経験した時代の重要な種子が包含されている写真であるとマーク・フューステルは展覧会の図録に書いています。
私も今回の写真展で1番印象に残ったのが濱谷浩の写真でした。特に「終戦の日の太陽」はこの時 既に来る新しい世代の写真表現を予測するような写真であり、同時に時代を超えた1枚だと思います。日本の写真表現は東松や奈良原ら以降、益々個人的で内省的になっていきますが、濱谷の写真は媚びることなく尊大になることもない、バランス感覚が際立った古くならないな表現、クラシックな写真だと思いました。
この写真展は土門拳記念館(2009年8月27日から10月28日)、愛知県美術館(2009年11月6日)、清里フォトアートミュージアム(2010年6月5日から8月31日)を巡回します。
※の写真は本展の図録(発行元クレヴィス)より転用しました。
「日本の自画像」展は第二次大戦集結(1945年)から東京オリンピック開催(1964年)まで、激動する19年間の日本を石元泰博(以前にも紹介)、川田喜久治、木村伊兵衛、田沼武能、東松照明、土門拳、長野重一、奈良原一高、濱谷浩、林忠彦、細江英公、以上11人の日本人写真家達が撮影した白黒写真168点で構成した写真展です。
この写真展は2004年に出版された同名の写真集「日本の自画像」(岩波書店)が基になっています。写真集の企画は戦後の日本の写真に興味を持ったパリ在住のマーク・フューステル(息子)、ヘレン・フューステル(母)親子が2002年から地道に始めたもので、写真集を制作するにあたり本展にも写真を提供した写真家の田沼武能、岩波書店 美術書編集者の多田亜生、写真評論家の平木収、人物地理学者の竹内敬一らが協力しています。当初は写真集の出版の後にフランス、パリにあるポンピドー・センターで展覧会が開催される予定でしたが、この企画に賛同していた当時ポンピドー・センター写真部門の責任者であったアラン・サヤグが写真集出版後に退官してしまったことで、写真展の話しは白紙になってしまいましたが、写真集制作から5年の歳月を経て今回ようやく日本で写真展が行われるようになったという経緯があったようです。
本展覧会で展示された168枚の写真は有名な写真が多く、少しでも写真に興味がある者にとっては、選ばれた写真自体には新鮮味の欠ける展覧会に映ります。しかし、終戦直後から東京オリンピック開催まで激動する約20年間の日本の様子をこのように写真で改めて眺めてみると大袈裟ですが私なりに発見もあって大変興味深い写真展でした。
特に印象に残ったことは敗戦後、僅か20年足らずの間で何の葛藤もなく殆どの日本人がアメリカ的民主主義に見事に同調してしまったことです。
田沼武能や林忠彦が撮影した終戦後の子供達を撮った写真を見た後に、約10年後に同じく東京銀座で田沼武能が撮影した若者達の姿を撮った写真を見ると複雑な気持ちになりました。終戦後、僅かな期間で復興を遂げた日本を写真展では"日本民族の強靭さ"と言う表現をしていましたが、アフガニスタンやイラク等、アジアの国々がもがき苦しんでいることに比べて日本人の身代わりの早い性質には軽薄さを感じずにいられませんでした。
※林忠彦 撮影 煙草をくゆらす戦災孤児 東京上野1946年(左)
※田沼武能 撮影 紐で電柱に繋がれた靴磨きの子供 東京銀座1949年(右)
※田沼武能 撮影 紐で電柱に繋がれた靴磨きの子供 東京銀座1949年(右)
※田沼武能 撮影 銀座の若者 東京銀座1960年(左)
※田沼武能 撮影 銀座の若者 東京銀座1962年(右)
※田沼武能 撮影 銀座の若者 東京銀座1962年(右)
本展覧会では激動する日本の様子と同時に日本の写真表現の変化も見せています。写真について感じたことも幾つかありました。
先ず、土門拳や木村伊兵衛らが写した被写体主体のドキュメンタリー写真が力強くそして当時の日本の様子が写っていることが素直に面白いと感じたことです。東松照明や奈良原一高らの写真も勿論、新しい写真表現として素晴らしい写真ですが、今回のような企画で写真を観るとストレートに時代を写した土門や木村達の写真が断然面白く映りました。別の言い方をすれば東松照明らが自己のイメージを探求し突き進んで行く程そこに映し出された写真は抽象的で写真のエネルギーは対照的に減衰していくように感じたのです。
※東松照明 撮影 <長崎> 熱線とその後の火災で溶解変形した瓶 1961年(左)
※奈良原一高 撮影 <人間の大地> No.41 緑なき島 軍艦島 長崎1954-57年(右)
※奈良原一高 撮影 <人間の大地> No.41 緑なき島 軍艦島 長崎1954-57年(右)
「日本の自画像」展は濱谷浩の「終戦の日の太陽」を撮った写真から始まっています。そしてこの写真は本展覧会を象徴する写真でもあります。展覧会の企画者、マーク・フューステルも「終戦の日の太陽」を重要な写真と捉えているようです。
玉音放送で日本の降伏と戦争終結を知った後に濱谷が何故このような写真を撮ったのか真意は分からないが、展覧会の最初にこの写真を選んだのは単に日本の戦後の出発点というだけではなく、日本の現代史において最も混乱と激動を経験した時代の重要な種子が包含されている写真であるとマーク・フューステルは展覧会の図録に書いています。
私も今回の写真展で1番印象に残ったのが濱谷浩の写真でした。特に「終戦の日の太陽」はこの時 既に来る新しい世代の写真表現を予測するような写真であり、同時に時代を超えた1枚だと思います。日本の写真表現は東松や奈良原ら以降、益々個人的で内省的になっていきますが、濱谷の写真は媚びることなく尊大になることもない、バランス感覚が際立った古くならないな表現、クラシックな写真だと思いました。
用賀駅から世田谷美術館まで続く道、「用賀プロムナード」に使われた瓦は写真家から淡路瓦の瓦職人になった山田修二が造ったものと聞いたことがあります。いぶし瓦を暫し眺めていると確かにモノクロプリントの世界と共通する美しさを感じました。
※の写真は本展の図録(発行元クレヴィス)より転用しました。
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